連載「Basic English誕生の時代背景」(6)
1932年に起こったことを振り返ります。この年、C.K.OgdenはBasic Englishを発表します。日本では政党政治の終焉と軍部政権の始まりとなる五・一五事件がおこりました。さらに日本は、ついに戦争のきっかけとなる傀儡国家満州国を建国したのがこの年でした。
一方で、科学とくに物理学は原子論でブレークスルーを果たし、飛躍的な発展への扉を開いた年でもありました。
■1932年
●陽電子の発見
ウィルソン霧箱をもちいて宇宙線を研究していたアメリカの物理学者カール・アンダーソンが、原子を構成する基本的な粒子のひとつで、電子と同じ質量で正の電荷をもつポジトロン、すなわち陽電子を発見した。陽電子の存在は数年前にイギリスの理論物理学者ディラックが予言していたが、この発見によって反粒子の存在がはじめて実験的に証明されたことになる。アンダーソンはこの業績により1936年にV.F.ヘスとともにノーベル物理学賞を受賞。また37年には、ネッダーマイヤーとともに宇宙線中に中間子の存在を発見し、学界が湯川秀樹の中間子論に注目するきっかけをつくった。
●リットン調査団
満州事変に対する中国の提訴に応じ、国際連盟は翌1932年にイギリスのリットン卿を団長とする調査団を派遣した。調査団は、満州事変の発端となった柳条湖事件(1931年)を正当な軍事行動ではないと断定。翌33年2月の国際連盟総会で報告案が可決されると、日本は3月に連盟脱退を通告した。
●電子顕微鏡を発明
ベルリンの工科大学で物理学者エルンスト・ルスカが、マックス・クノールとともに最初の電子顕微鏡をくみたてた。電子顕微鏡では電子を物体にあてる。電子は光よりもはるかに短い波長をもち、光にくらべてずっと小さな構造を分解することができるため、原始的なものながら、物体を400倍に拡大することができた。1939年には、拡大倍率も飛躍的に向上、ジーメンス社から製品として発売された。
●ハクスリー「すばらしい新世界」
1932年、イギリスの小説家オルダス・ハクスリーは逆(アンチ)ユートピア小説として名高い「すばらしい新世界」を発表。科学技術の進歩が人間の心と身体を管理し、すべての人間が人工受精でつくられるという未来社会をえがき、管理社会の恐ろしさを風刺した。
●3月1日 「満州国」建国
現在の中国東北3省(遼寧・吉林・黒竜江)に「満州国」が建国された。1931年9月にはじまった満州事変が自衛戦であるという建前から、軍中央は関東軍に満州、内蒙古の領有を断念させ、傀儡(かいらい)国家を樹立したもの。建国宣言に「五族協和」をかかげていたが、行政上の実権はすべて日本人がにぎる植民地となった。石炭、鉄などの資源獲得とともに、昭和恐慌以後のインフレ、失業問題の解決策として、植民地への農業移民および市場開拓の期待も大きかった。
●4月24日 日本ダービー始まる
1780年に競馬発祥の地、イギリスで4歳馬NO.1をきめるレース「ダービー」が始まり、その後これにならって世界各地でダービーの名を冠したレースが誕生。日本でも1932年4月24日に東京の目黒競馬場で第1回日本ダービー(東京優駿大競走)がおこなわれた。距離はイギリスと同じく2400m、雨のなかの不良馬場で19頭が出走しておこなわれ、函館孫作の騎乗するワカタカが2着オオツカヤマ以下に4馬身の差をつけて優勝した。当時、今日のような連勝馬券はなく、1枚20円の単勝馬券の払戻金は39円だった。
●5月15日 五・一五事件
天皇親政や軍部独裁政権をめざす海軍急進派の青年将校らを中心に、陸軍士官候補生や右翼などが首相官邸をおそい、首相の犬養毅(いぬかいつよし)を殺害した。別働隊は警視庁や内大臣官邸、立憲政友会本部などもおそっている。こののち、海軍大将の斎藤実を首班とする挙国一致内閣ができ、政党政治は終わりをつげた。
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