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小説「ロスタイム」(5)

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 後半が始まった。のっけからデュランの猛攻が続く。おれはありったけの声を張り上げて、レジウスにエールを送った。
 死にたくない。何としてもレジウスに勝ってもらわねば。
 レジウスのボール支配率が少しずつ増えていた。
 デュランの攻撃からカウンターに転じる場面が見られ、左サイドの鴨下が前線まで上がり、彼にボールが集まるようになった。鴨下からは効果的なパスが敵ゴール前に放り入れられ、2トップの柳川と成瀬が敵ゴールを脅かすようになった。
 ゴールの予感がしてきた。
 その矢先、ボールを奪ったデュランが素早く展開し、戻りに遅れをとったレジウスのDFが体当たりでボールを取り返しに行った。
 ペナルティエリアだったため、デュランのFWは派手なアクションで倒れ込んだ。
 レフェリーはレジウス側にファールの判定を下した。PKだ。まわりのレジウスサポーターからは激しいブーイングが浴びせられた。おれは、膝に力が入らずへたり込みそうだった。
 キックをするデュランの選手がボールを地面に置き、5メートルほど下がった。
 レジウスのゴールキーパーは谷。身をかがめて構えている。
 デュランの選手は助走してから軽いタッチでボールを蹴った。
 谷は右に飛んだが、ボールは無情にも左に飛び、ゴールネットを揺らした。0-2だ。
 携帯が鳴った。
「どうしてあれがファールなんだ」男は不機嫌そうだった。
「まったくだ」おれも言った。
「不愉快だ。早く君を殺したくなってきたよ」
 おれは慌てた。
「待て、賭けをしたはずだ。それにおれもあんたも同じレジウスのファンじゃないか」
「そう、わたしほど熱烈なサポーターはいないだろう。負けたら人を殺そうとしてるくらいだからね」
「そんな…同じサポーターなら仲間じゃないか」
「それは違うな。わたしはレジウスを愛しているが、君には何の思い入れもない。君はただのサッカー好きの獲物だよ」
「今までも殺したことがあるのか?」
「いや本当に殺そうとするのは、これが初めてだよ、24番。ただ、よく競技場で観客に照準を合わせて楽しんでいたがね。引き金を引くのはきょうが初めてだ」
「なぜきょうに限って人殺しをする気になったんだ?」
「わたしのこの退屈を紛らわせてくれるのは、人を殺すことだけだと判ったからだよ」
 まるで筋が通っていない。この男は狂っている。
「0-2だな。君は死ぬかもしれないな」
「まだ分からないぞ。試合は終了のホイッスルが鳴るまでは決まらないんだ」
「そうだな。そう思うのがサポーター心理というものだろう。意見が一致して嬉しいよ」
 たとえ意見が一致しても男はおれを殺すだろう。
 だが、いくらイカれた男とはいえ、今まで一度も人殺しをしたことがない人間が躊躇なく引き金を引けるものだろうか。確かに男は空き缶を撃った。しかし空き缶と生身の人間は別だ。迷いはないのか。

    *  *  *

 試合は膠着状態に入っていた。ボールの奪い合いが繰り返された。互いに、中々相手のディフェンスラインを破れない。
 レジウスは監督の指示だろうか、ボランチの岡島が上がり前線に参加するようになっていた。
 時間はどんどん経過していく。後半も40分を過ぎた。レジウスサポーターの声援もヒートアップする。
 携帯が振動した。
「敗色濃厚だな」男が言う。
「まだ分からん」おれは叫んだ。
「死ぬのは怖いかね、24番」
「当たり前だ」
「その表情、たまらないな。大観衆の中で一人だけ恐怖を感じている人間を見るのが楽しみだったんだ。実現できて嬉しいよ」
 ふざけるな。
 やがて時計は45分を回った。おれは手足に血が通わず氷のように冷たくなるのを感じた。
 何分ロスタイムが残っているのか…

 そして、ロスタイムの表示板が提示された。
 4分。
 残すところ4分だ。

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