小説「ロスタイム」(4)
試合は前半からデュランがボールを支配し、スペースに入れて来るデュランのフォワード陣をレジウスの4バック体制のディフェンス陣が防ぐという場面が何度となく見られた。
おれは汗だくでレジウスを応援した。
いつもの試合とは気構えがまるで違っていた。命がかかっているのだ。
前半22分、ついにデュランのFW木下が、絶妙のスルーパスを受け、レジウスのDFラインをドリブルで突破してきた。やむなく飛び出して来たゴールキーパーをかわし、鋭いシュートでゴールを奪った。0-1だ。
沸き上がるデュランサポーターの雄叫びが、スタジアムを揺るがした。
おれは頭を抱えた。
ポケットの携帯電話が振動した。
「悔しいね。24番」男が言った。「きょうはレジウスの中盤がピリっとしないな。わたしはイライラしてきたよ」
おれは男が短気を起こすのを恐れた。
「ま、まあまだ始まったばかりだ。レジウスは反撃してくれるさ」
「そうだな。きょうは左サイドに鴨下を起用しているね。八神を使わなかったのはなぜだろう」
「デュランの右サイドが野田だから、八神より鴨下の方が相性が良いんだろう」
「そうなのか」
「ああ、きょうの布陣は期待できるぞ」
奇妙な光景だろう。自分の命を狙う男にチームのポジショニングを解説している。
「この後の展開に期待しよう」電話が切れた。
* * *
前半も35分を過ぎて、ようやくレジウスの歯車が噛み合い出した。
38分、オフサイドぎりぎりでボールを受けたFW柳川の正面にゴール前ががら空きになる決定的チャンスがあった。だが、放ったシュートはゴールポストを外れた。
隣の若者が「チクショー」と叫んだ。汗で顔のペインティングが一部剥がれかけている。
おれも座り込んでしまった。若者と同じ気持ちだ。
41分には、ファールでゴール前約20メートルの位置からフリーキックのチャンスを得た。鴨下が蹴って、並んだデュランの選手が作る壁の間を抜いたが、ゴールキーパーの正面だった。
携帯が振動した。
「今のは惜しかったな、24番」男が言った。「まもなくハーフタイムだが、席を立とうなどとは思わないように頼むよ、24番。邪心が起こったら胸を見下ろすんだ」
おれはユニフォームの胸を見下ろした。赤い輝点が相変わらずおれの胸板の真ん中に当たっている。男がライフルの引き金を引けば、その輝点のところを撃ち抜かれるんだ。
「分かった。どこにも行かない」おれは震えながら答えた。
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