小説「ひとこと言うたるわ」(02)プロローグ2/5
協議離婚して4年になる。夫の女性問題が理由だった。最初の1年は前夫から毎月の慰謝料が振り込まれていたが、しだいに間が開くようになり、ついには全 く支払われなくなった。当然、家庭裁判所に訴訟を申し立てるケースだが、涼子はもう争いにうんざりしていた。前夫への怒りはあったが、もうどうでもよい気 分だった。
浩太は利発な子どもだった。絵本を与えると熱心に読みふけった末にそらで言えるようになるし、3歳でひらがな、カタカナをマ スターしてしまった。難しいかもしれないと思いながら程度の高い児童書を与えてみると、それに没頭し、読み終えたら物語の中の1シーンをクレヨンで絵に描 いた。手をつないだ親子が、海に沈む夕日をながめている絵だった。それは、とても幼児が描いた絵には見えなかった。そして浩太は、なんと3歳半で時計の見 方を憶えしまった。(親馬鹿を差し引いても、この子は頭のええ子や。)涼子は浩太に最善の教育を与えるべきだと強く思った。
陽光学園附
属小学校は、早期才能教育を大胆に導入していることで有名な学校だった。普通の授業の他に、科学、芸術など広い範囲の分野についてその子の才能をよく観察
し、見込みのある能力が見つかれば専門のスタッフが付いて充分に伸ばしてやる---そういう体制をとっていた。
涼子は、この学校なら浩太にふさわしいと思った。授業料は高いが、必要なら別のアルバイトを増やしてでも通わせたいと思った。
陽光学園に入るためには入学試験と面接を受けなければならない。浩太は、涼子が買い与えた参考書を毎晩遅くまで勉強した。乾いた土に水がしみこむように、それらはどんどん浩太の頭に吸収されていった。
浩太はときどき、陽光学園の前まで行っては構内の様子を見ていた。そこには、友達同士でなかよく遊ぶ屈託のない子供たちの姿があった。着ている服は、陽光学園の制服だ。浩太は強いあこがれを抱きながら、その風景を食い入るように見つめていた。
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